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石川 善樹(いしかわ よしき)

「ハーバードから見える景色~Standing on the shoulders of giants~」



HIV/AIDSの予防に、コンドームは効かない?!

1.HIVの発生を防げ!!


パブリックヘルス分野における画期的な研究が、本日世界に向けて発表された。おそらく、各国のメジャーなメディアがこぞって取り上げることだろう(日本はどうか知らないが)。


「HIV予防の再考」と題され、Science誌に掲載された論文は、アフリカ地域におけるHIV予防策について、重要な批判及び提言を行っている。


2.従来のHIV戦略に対する批判


まず研究者達は、HIV予防の伝統的な手法(コンドームの使用促進、HIV検査、他の性感染症の治療、ワクチン開発、節制教育)の効果は限定的である、と指摘している。さらに、アフリカ地域におけるHIV感染の悲惨な状況は、貧困、適切な医療サービスの欠如、低い識字率、戦争/紛争、男女間の不平等、などがその背景にあると従来考えられていたが、その可能性はきわめて低いことを、様々なデータを元に検証している。


3.科学的に効果があると認められる対策とは?


続いて研究者達は、2つの対策が有効であると論じている。


一つは、「複数のパートナーとの性交渉の抑制」である。例えばウガンダでは、"Zero Grazing"というキャンペーンを行った結果、1989年から1995年の間に、複数のパートナーと性交渉を持ったと答える人が半数以下になった。またケニアにおける近年のHIV感染の減少も、複数の人との性交渉が減ったためと考えられている。


もう一つは、「男子の割礼(かつれい)」である。実証研究でも男子の割礼がHIV感染のリスクを60%減少させることが証明されている。また、割礼が広く行われている西アフリカ地域では、実際にHIV感染率は低いままである。


それにしても、何故割礼をしないと、HIV感染のリスクが高まるのであろうか?2つ理由があると考えられており、


1)男子の陰茎を包む皮は、HIVのターゲットとなる細胞が高密度で存在するため
2)(陰茎の)粘膜の角質化が起こらないため


と指摘されている。


4.お金は計画的に使いましょう


研究者達の主張は、以下の通りである。


「HIV予防のために科学的に効果があるとされる、複数のパートナーとの性交渉の抑制及び男子の割礼に対して使われているお金は、全体の5%以下に過ぎない。残りの多くのお金が、科学的に効果が疑わしいとされる対策(例:コンドーム使用の促進)に使われている。実にけしからん!」


誤解の無いように言っておくが、コンドームの使用は、HIV予防のためには確かに有効な策である。例えばタイのように、性産業従事者からのHIV感染が多い国では、コンドームの使用は、HIV感染を予防する上で大きな効果を挙げてきた。


だが、アフリカのように一般人口の多くがHIV感染のリスクにさらされている地域では、上に挙げたような対策が有効であるのだと、研究者達は指摘している。


それにしても、男子の割礼がHIV予防に効果的であるとは、私自身目からうろこが落ちる思いであった。人はついつい、自分の視野の中で世の中を見がちであるが、改めて反省させられた次第である。


5.雑感


NHKの大河ドラマ「篤姫」の中で、島津斉彬(高橋英樹)が、新たに庭方役にした西郷隆盛(小澤征悦)を以下のように叱りつける場面がある。


「目先のことは点に過ぎぬぞ、西郷。その大きな眼で世界を広がりとして見よ。そちならば出来ると思うからこそ・・・ワシはソバに呼んだのだ。」


西郷は感涙し、平伏する。


「ありがたき幸せ」


今の私の気持ちは、まさに西郷と同じである。大いなるパブリックヘルスの世界を前に、ついつい視野狭窄に陥りがちであるが、居住まいを正し、大きな眼で世界を見ていきたい。


Source:Reassessing HIV Prevention. Science. 2008:320;749-750

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プロフィール

ハーバードブロガー:石川 善樹
石川善樹(いしかわ よしき)
1981年、広島生まれ。小学生の頃、野口英世の伝記に感銘を受け、「世界の健康のため、私が出来ることは何だろうか」と人生の命題に出会う。医学部健康科学科を卒業後、ヘルスケア系コンサルティング会社に勤務。同時に、友人とUnited Flowersを立ち上げる。現在は、ハーバード公衆衛生大学院(Health Policy and Management専攻)に在籍。趣味はラクロス。

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